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山田順子_LINE

開幕前によけいな一言

この台本は2002年に来日したフランスのパイヤール室内管弦楽団の日本公演のために書き下ろした作品です。
パイヤール室内管弦楽団は指揮者のジャン・フランソワ・パイヤール氏によって1953年に創立されたフランスの有名な室内オーケストラです。日本でも人気が高く全国ツアーをたびたび行っています。
 その楽団が、2002年の冬、クリスマス・コンサートのメイン曲目として、サン・サーンス作曲『動物の謝肉祭』を演奏することになりました。この曲は動物の名前が付いた小曲によって構成されているため、その動物に関するナレーションをつけて演奏するという演出が多く行われ、幾多の有名オーケストラと実力派俳優が共演しています。
 それを2002年のパイヤール室内管弦楽団は、当時人気絶頂だったお笑いタレントの山田邦子さんとの共演を選んだのです。これはクラシック業界にとっては大事件です。フランスの名門オーケストラ、指揮者は世界じゅうのオーケストラから招請をうけるマエストロです。  そこで、引っ張り出されたのが、山田邦子さんをクラシック音楽の世界に導いた山田順子です。(同じ山田ですが、親戚関係はありません)
正直悩みました。世界最高峰の演奏と日本を代表するお笑いタレントの共演です。よし! 日本の笑いの底力をみせてやろう!フランスにはエスプリという文化があるのだから、きっとマエストロも理解してくれるはずだと、私は勝手に決めていました。
 そして、出来上がったのがこの台本です。リハーサル初日、邦子さんと私の緊張は極限まで高まっていました。もし、マエストロが怒りだして、フランスに帰るなんて言ったらどうしよう。胸はバクバクものです。  邦子さんのナレーションが始まると、マエストロが盛んに邦子さんと一部の楽団員を見比べているのです。見比べた楽団員は、今回のツアーで足りないパートを演奏するために入っていた日本人演奏家です。邦子さんのナレーションが始まるたびに、下を向いて笑いをこらえていたのです。その様子に気がついたマエストロが不信に思い、見比べていたのです。
 リハーサルが終わると、マエストロは通訳とマネージャーを連れて、一言も発せず早々に部屋を出て行ってしまいました。やっぱりマエストロに日本の笑いは通じなかったか。次のリハーサルまでに台本の全面書き換えをしなくてはならないなと、覚悟を決めていました。しかし、マネージャーからは全く連絡がなく、次のリハーサルの日が来ました。仕方がないので、邦子さんと腹を括って思い切りやりましょう。ダメならダメで「ごめんなさい」をしょうということになりました。
 そして、前回どおりリハーサルが始まったのですが、なんと邦子さんのナレーションが終わるごとに、マエストロが指揮棒を持ちながらですが、拍手をしているのです。さらにフランス人演奏家も続けて、弦で楽器を叩くふりをして、拍手をしているのです。これってもしかして、面白いと言ってくれているのかな?!  通訳の方に「これはどうしたことですか?」と聞くと、前回のリハーサル後、マエストロが大至急ナレーション台本をフランス語に翻訳して欲しいと言われ、徹夜で翻訳して渡したところ、演奏家全員にも渡すように指示があったというのです。普通、海外のオーケストラが「動物の謝肉祭」を演奏するとき、ナレーション台本を翻訳して見せることはなく、演奏家たちもナレーションを気にせず、淡々と演奏だけをしているそうです。
 それが、今回、日本人演奏家があまりにも可笑しそうなので、どんなナレーションか気になって読みたいと言ったのです。
 おかげで、邦子さんと私の首はつながり、このあと1か月近くパイヤール室内管弦楽団の皆さんと、全国のホールを回り、毎回お客様と一緒に楽しい時間を過ごしました。
2013年4月15日ジャン・フランソワ・パイヤール氏は85歳で永眠されました。マエストロと山田邦子さんの再びの共演を願って封印してきた台本ですが、エスプリを愛したマエストロを偲び、公開したいと思います。

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